天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

 そうか、これは例外として時々起こりうるのかもしれない。他の計器も正常なので、「了解」と返した。

 しかし、経験したことのない状況に不安は増していく。本当に大丈夫なのだろうか。このまま進んだら、雲で見えていない山に衝突するのではないか。

 言いようのない恐怖を覚え、肩に力が入る。胸をざわめかせつつ冷静さを保っていたその時、落ち着いた調子の若い女性らしき声が聞こえてくる。

『HA305,Matsumoto redio. Traffic, Cessna, departed RIPCI, 10 minutes ago.(ヒノモトエアー305、こちらは松本レディオです。十分前にセスナ機がRIPCIを通過しました)』

 松本空港の情報官から入った一報。これを聞いた時、最初は不思議に思った。

 今の情報は、これから俺たちが到達するポイントを十分前に一機のセスナが通過していったと教えてくれているもので、本来なら伝える必要がないからだ。

 しかしそれに続けて、もう少し進めば視程が今より格段によくなるという情報が入ってきた瞬間、緊張が和らぐと同時に情報官の意図を察した。