天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

 副操縦士は主に計器のモニタリングや無線交信を担当するが、俺はいつも自分が操縦しているつもりで飛ぶようにしていた。来年には機長昇格試験を受けるのだ、常にイメージだけでもしていたい。

 しかし、この日ばかりは自分のやるべきことだけに集中していた。空港に近づくにつれ、三千メートル以上もある山の間に入っていくものだから、さすがに緊張する。

 周囲もよく見えず、すぐそばにあるように感じる山肌にひやりとした、その時。

《Terrain,Tarrain》

 静かなコックピットに普段聞くことのない警報が鳴り、一瞬息が止まった。

 今、作動したのはGPWSという対地接近警報装置だ。なんらかの理由で地面や山に近づいてしまった時に警報で知らせるもの。これが鳴ったというのは非常事態であり、聞きたくない音のひとつだと、訓練生時代からよく聞かされている。

 危険な状態なのではとすぐさま計器に目をやるも、特に異常は見受けられない。なぜ鳴るのだと眉根を寄せる俺に対し、ベテランの機長は平然とした様子だ。

「やっぱり鳴ったか」
「高度も経路も、正常なはずですが」
「ああ。最近のGPWSは精度が上がっていて、こういう山の近くの微妙な地形にも反応するんだよ。問題ないからこのまま継続しよう」