だが、例えばマーク・パクストンも、婚約はしていない。
 彼は次代のモイヤー伯爵だ。
 婚約者くらい居て当たり前、のような気がするのに。


「親には条件内で自分で決める、って説得したよ。
 恋愛脳じゃないけど、相手くらいは自分で、ね」


 
 恋愛脳……マークが語ったその言葉も聞いたことがあるような、ないような。
 そんな話を、これまた婚約者が居ない次代侯爵閣下のオスカーに聞かせれば。
 何故だか、少しだけ耳朶を赤らめていた。




 グレンジャーが後になって思い返せば、あの頃事態は大きく動いていたのだ。


 ミシェルは登校しなくなっていた。

 オスカーもますます、おかしくなっていた。


  ◇◇◇


 仮面祭りの前日、放課後にオスカーが教室に飛び込んできた。
 
 抑えられないくらい感情的になっていた。
 いつも穏やかに凪いでいた彼の波動がピリピリとしていた。
 教室に残っていた皆がそれを感じて、グレンジャーとオスカーの様子を伺っていた。