そう尋ねたグレンジャーに、ウェズリーは己の胸の辺りを指差した。


「自分でも分からない力が働いたみたいに。
 ミシェルを一目見た時、ぐいって、心臓が掴まれた感じだったんだよ」


 心臓が掴まれた、か……
 男心は、よう分からん。
 自分も男なのに、グレンジャーはそうピッパに、嘆いてみせた。


 後、よく分からん、と言えばオスカーのことだ。
 夏休みが始まる前に、例の『仮面祭りの夜、よろしくな』があったのに。
 さっき、また魔法棟へやって来て『仮面祭り、約束忘れてないね?』と言ってくる。
 

 一体この1年間で何回、その約束をさせられた?
 俺は忘れてないよ?
 忘れかけてるのは、お前だろ?

 何度もそう言い掛けて、それでも言わなかったのは。
 オスカーの様子が普通じゃない気がしたからだ。


 だから、付き合うようになったピッパから、仮面祭りに誘われたけれど、オスカーと約束してるから、と断った。

『いいよ、オブライエンなら仕方ない、分かった』と物わかりの良い彼女に。
 さすが、俺の彼女、と惚れ直すが、もうちょっと残念がってよ、とも思う。


 
 そして、それから直ぐに王城でのデビュタントが開催され。

 今年行かなかったことを、グレンジャーは少し後悔した。