従順そうに『僕のお祖母ちゃん』だって。
 オスカーがこんな策士だとは思わなかった。


 文化地区は居住地区じゃない。
 ビルはそんなことも知らないんだ。
 公共施設が閉まる16時過ぎには、人影もまばらだ。
 こんな場所を直ぐに言えたカール、って……


 馬車が博物館裏に停まった。
 支払いをする時、オスカーがグレンジャーを手招いた。


「練習だ、『俺達を忘れろ』とでも、念じてくれ」


 え、さっき言ってた記憶の書き換えの練習?
 グレンジャーは戸惑いながらも、御者に対してその通りにした。
 すると、御者はしばらくグレンジャーを見て。
 頭を振って、馬車を駆けて行ってしまった。


 あれだけで果たしてうまく行ったのかは、わからない。
 しかしもし、成功していたのなら。
 あの御者は胸ポケットにある覚えのない紙幣に驚くだろう。


 馬車を見送るふたりに、ビルが早くしろ、と大声を出した。
 振り返りつつ、オスカーがグレンジャーに親指を立てた。


「さぁ、グレン。
 絶対に殺しちゃ駄目だからな?
 お前を蹴った膝を狙うか……
 彼女を殴った腕を狙うか。
 自分より力が無い者に暴力をふるうクズだ。
 実行するのはグレンだけど、指示したのは俺だ。
 俺達は共犯で、共に墓場まで持っていく秘密にしよう。
 もし、記憶の書き換えが失敗してバレたら、俺の名前を出せよ。
 一緒に退学になろう」