朝7時30分。



俺は鏡で前髪を確認しながら、家を出た。


バスに乗って、2駅過ごす。



3駅目で降りる時には、7時40分だ。



駅の改札で、あの子を待つ。




……来た。


携帯見るふりをしながらも、視界にギリ入るところで。



「……茉雪」


いつものセミロング、髪色は少し薄めの黒で……可愛すぎる。





「おはよう……浬くんっ……!!」




……2回目だが可愛すぎる。


「おはよ」


……俺は茉雪が好きだ。初めて会った頃から。


「行こっか」




「……うん!」



電車に乗って、俺は漢字の問題集を取り出した。


「あれ、もしかして今日って漢字の小テストだっけ……!?」

茉雪が驚いて、目を見開いている。



「うん、そうだよ。……やってなかった?」
「……嘘っ……」



茉雪はドジで可愛いし……。



「あとで一緒に勉強しよ。……範囲狭かったはずだし、現代文の授業5限目だし」


……茉雪と勉強するのは楽しみだ。

「……ありがとうっ……」
ふわっと微笑んでくれた茉雪が可愛い。


「……いつも頼ってごめんね……」
静かにまゆげの端を下げた茉雪。


「茉雪」
「……?」
「もっと、頼ってもらって全然いいんだけど」



ほんとにほんと……もっと頼って欲しい。
……そして、男らしいところを見せたいのに。



「……へっ?」


「もっと、俺に甘えていいよ」


茉雪の願いとかおねだりとか……可愛すぎて全部OKしちゃいそうだし。



「……う、うん……ありがとうっ」


そう言って時、茉雪が後ろを向いた。



……なんだ?


「……」
すると、中年のおっさんが、茉雪のことを見ていた。



……っ。



「……茉雪」




俺は咄嗟に腕を引き、茉雪が見えないように、俺の体で隠した。


「あ、ありがとう……っ」


完全にあれは狙ってた。


……それもこれも茉雪が可愛いのが悪いって……。



「絶対目合わせないで。……俺に隠れてて」

「……う、うんっ」



それにしても、相変わらず小さい。

小さい頃から、小動物感があって、癒されるような……そんな見た目をしていた。



「……着いた。行こ」


それは今も、変わらないけど。



「うん……!」

可愛い声で、大きく返事をした茉雪。



「さっきは、守ってくれてありがとうっ」






「……茉雪、かわいいから狙われやすい」
……まずい。本音が出てしまった。


「……へっ……?」


分かりやすくびっくりしている。


「かわいいから」


このまま続けることにした。



「……あはは、ありがとう……っ」


多分茉雪は、俺がどういう意味でこの言葉を言っているのか分かってない。


「ほんと……無自覚だよね。……あと、謙遜してるんじゃなくて、ほんとに分かってないのが伝わってくるし……。」



「ど、どういうことっ……?」

……俺は茉雪と一緒に、今日も学校へ通っていく。


『また石宮くんいるよ……!!』

正直言うと、学校の女子はうざい。



……茉雪以外は。



ふと茉雪の方を見ると、申し訳なさそうに、肩を縮めていた。




「茉雪」


距離も気づけば離れてるし……ほんと、茉雪が一番可愛いのに。



「もっとこっち来て」


「……!?……浬くんっ……」



俺は茉雪のためならなんだってするよ?



『今日も平井さんかわいい……』
『てか、石宮……クソッ……』
『石宮に勝てないよなぁ……』





「……見せつけてるから」
「え?」
「なんでもない。」






……世界一大好きな女の子だから。