「茉雪〜。まだ出発してないの〜?」


「はーい、今出発するーっ」


……毎朝7時40分。

私は家を飛び出し、最寄り駅までバスに乗る。


……7時55分、最寄り駅に到着。





そして……あの人が待っているんだ。


……いた……!!


彼は、両耳にワイヤレスイヤホンをつけているのにも関わらず、私がいることにいち早く気づく。




いつも、気づかれないように、気配をなくして近づいてみるけど……






『……茉雪』




って、すぐ気づかれてしまう。




……そーっと……
彼が、急にこっちを向いた。



……早すぎる……っ!!



「……茉雪」



遠くから呼ばれて、急いで駆け寄った。



「おはよう……浬くんっ……!!」


「おはよ」



石宮浬くん。小学校の頃から、親の仲がよく、よく一緒に遊んでいた。



そして運良く、中高は一緒!


同い年で、とっても優しい彼は、スタイル抜群。


それに、誰もが認めるイケメン。


まさに、漫画に描いた王子様だ。




「行こっか」



「……うん!」


学校の駅は、2個隣。


私がいつも通っている時間帯は、社会人がすごく多くて、あまり同じ学校の学生は見かけない。



……というか、浬くんも私も、部活入っていないし、朝練がないんだ。


「あれ、もしかして今日って漢字の小テストだっけ……!?」


電車に乗った時。


浬くんが漢字の勉強をしていて、先週の先生の言葉を思い出した。



「うん、そうだよ。……やってなかった?」


「……嘘っ……」



「あとで一緒に勉強しよ。……範囲狭かったはずだし、現代文の授業5限目だし」



こうやって、スマートで頭が良くて……。



何もかも完璧人間だ。



「……ありがとうっ……」



……いつもこの優しさに、甘やかしてもらっている。



ダメだよね、いっつも浬くん頼ってたら……。



「……いつも頼ってごめんね……」


「茉雪」



「……?」


「もっと、頼ってもらって全然いいんだけど」


「……へっ?」


……どういうこと……?




「もっと、俺に甘えていいよ」


「……う、うん……ありがとうっ」




その時、ある視線を感じた。



「……」



50歳ほどの、男の人が……ジロジロ私も見ている。



「……茉雪」



……?どうしたんだろう。




急に腕を引かれて、びっくりした。



私がその人から見えないように、私を隠してくれた浬くん。


……ドキッ。




「あ、ありがとう……っ」



「絶対目合わせないで。……俺に隠れてて」


「……う、うんっ」


……というか、さっきから、距離が近い……。


「……着いた。行こ」


「うん……!」


……8時ぴったり。



2人並んで、駅から学校まで歩く。



「さっきは、守ってくれてありがとうっ」




「……茉雪、かわいいから狙われやすい」



「……へっ……?」


「かわいいから」




お、お世辞はやめて……っ!



「……あはは、ありがとう……っ」


すると浬くんが、じっと私を見つめてきた。


「ほんと……無自覚だよね。……あと、謙遜してるんじゃなくて、ほんとに分かってないのが伝わってくるし……。」



「ど、どういうことっ……?」



「……ふふっ、ま、行こ」



……学校に着いた。


『また石宮くんいるよ……!!』


浬くんはいつも女の子たちから、絶大的な人気を誇っていて……
こうやっていつも、みんなからちやほやされている。



……だから、私は癖がついちゃって。


気づけば学校に近づいたら浬くんと、少し距離を置こうとしてしまうんだ。



「茉雪」



少し俯いていた私の顔を、上げさせたのは、浬くんの声だった。



「もっとこっち来て」


……腕を掴まれた。そこから引き寄せられて……。


浬くんが私の手に指を絡めてきた。






「……!?……浬くんっ……」



……ドキッ。



『きゃー!!』



『うそうそっ……どういうこと!?』



『糸雨さん、羨ましい……』



なんか言われてる……。


『今日も糸雨さんかわいい……』



『てか、石宮……クソッ……』


『石宮に勝てないよなぁ……』




男の子にもなんか、言われてる……っ。



確かに、浬くんかっこいいし、男の子にも人気があるのかな……。



「……見せつけてるから」








「え?」


「なんでもない。」




……なんて言ったんだろう……