しばらくして化粧室を出ると、視界の端にブラックのタキシードを着こなすスタイルの良い男性がこっちへ歩いて来るのが見えた。 少し下を向いていて顔は見えない。 黒髪は綺麗にセットしてある。 顔は見えなくてもすでにかっこいい。 誰なのかなんとなくわかるのに、いや、もうはっきりとわかるのにその場から動けなかった。 数メートル先で顔を上げた彼は、私に気づくと立ち止まった。 「いいんちょー・・・?」