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淳平と未央は、家が近いだけでなく母親同士が同級生だったこともあり、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった。未央には5歳年上の兄・海がいる。その海がバスケが好きで、それがきっかけで淳平はバスケを始めた。
当初淳平にとって未央は、海にバスケを教えてもらう際にひっついてきては、相手にされないとぐずぐず泣いて帰っていく、そんな存在感だった。
意識し始めたのは中学に入ってから。
ひとりっ子の淳平のうちは、両親が仕事で不在のことが多く、学校生活の悩みごとや人間関係のいろはは未央の父母や海に学ぶことが多かった。淳平は高校生になった今でこそ物静かな印象で通っているが、とくに小学校高学年の頃は感情をコントロールできず、人や物にぶつかって揉め事を起こすことが多かった。そのため、淳平の両親はたびたび学校や相手の親から呼び出されては、仕事終わりに菓子折りを持って謝罪しに行った。お喋りで心配性の母と一回り年上で穏やかな父は、心配こそすれど、淳平を強く叱責することはなかった。ただただ、淳平の心の扉を開くことに難儀していた。いかんせん、平日は家族の時間が少ない。休日も黙ってバスケの練習に行ってしまう。
また、難儀していたのは淳平も同じだった。
未央とその父母、そして海は、平日、淳平がひとりのときに寄り添った。といっても淳平の問題行動に口出しすることは決してなく、共に夕飯を食べ、テレビを見て、父がいるときは趣味の映画を皆で観ては、つまらない指摘や感想を言い合った。淳平はここでも口数は少なかったので、聞き役に回ることがほとんどだったが、とても居心地がよかった。自分が喋っても喋らなくても、このコミュニティでは皆が自分を認めてくれる、そう信じられる場所になっていた。
中学1年のとき、淳平を嫌うクラスメイトが、教師が見ていない隙に喧嘩を吹っかけてきて、淳平を陥れようとしたことがあった。教師は両者を会話で和解させようとしたが、口下手な淳平は言い争いになるとまるで歯が立たない。まるで濡れ衣を着せられ、謝罪を要求されていたところを、当時クラス委員だった未央が救った。
「先生、私、市川くんが細工していたところ見ました。
神木くんはそばにいただけで何もしてないです」
たった一人の目撃者の証言で、状況は覆った。それだけ未央は普段から教師を含めクラス中から信頼されていたのだ。
ただし、口には出せなかったが淳平には疑問が残っていた。未央がその場にいた記憶がなかったのだ。たしかに騒ぎになった後に駆けつけた第一波にはいたと思う。しかしそのときは心底驚いた顔をしているように淳平には見えた。なぜその彼女がそんな証言を?
あんまり不思議に思ったため、帰り道、自宅に入る前の本人を捕まえ思い切って尋ねたところ、あっさりと虚言を認めた。
「誰にも言わないでね。
だって、喋るのヘッタクソな淳平が、ややこしい口ゲンカになりそうなことを自分からふっかけるはずないもん。
それに、淳平が嘘ついてないことくらい見ればわかるよ」
この件のインパクトは大きかった。
未央が、未央自身が築いてきた信頼を担保に自分の無罪に賭けてくれた。
二度と彼女に同じことはさせたくない。口では誰にも勝てないから、行動で示す以外にない。
それに、仮に誰も信じてくれなくても、自分には帰る場所がある。そこには彼女もいる。
以来、淳平の問題行動は見られなくなった。
淳平と未央は、家が近いだけでなく母親同士が同級生だったこともあり、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった。未央には5歳年上の兄・海がいる。その海がバスケが好きで、それがきっかけで淳平はバスケを始めた。
当初淳平にとって未央は、海にバスケを教えてもらう際にひっついてきては、相手にされないとぐずぐず泣いて帰っていく、そんな存在感だった。
意識し始めたのは中学に入ってから。
ひとりっ子の淳平のうちは、両親が仕事で不在のことが多く、学校生活の悩みごとや人間関係のいろはは未央の父母や海に学ぶことが多かった。淳平は高校生になった今でこそ物静かな印象で通っているが、とくに小学校高学年の頃は感情をコントロールできず、人や物にぶつかって揉め事を起こすことが多かった。そのため、淳平の両親はたびたび学校や相手の親から呼び出されては、仕事終わりに菓子折りを持って謝罪しに行った。お喋りで心配性の母と一回り年上で穏やかな父は、心配こそすれど、淳平を強く叱責することはなかった。ただただ、淳平の心の扉を開くことに難儀していた。いかんせん、平日は家族の時間が少ない。休日も黙ってバスケの練習に行ってしまう。
また、難儀していたのは淳平も同じだった。
未央とその父母、そして海は、平日、淳平がひとりのときに寄り添った。といっても淳平の問題行動に口出しすることは決してなく、共に夕飯を食べ、テレビを見て、父がいるときは趣味の映画を皆で観ては、つまらない指摘や感想を言い合った。淳平はここでも口数は少なかったので、聞き役に回ることがほとんどだったが、とても居心地がよかった。自分が喋っても喋らなくても、このコミュニティでは皆が自分を認めてくれる、そう信じられる場所になっていた。
中学1年のとき、淳平を嫌うクラスメイトが、教師が見ていない隙に喧嘩を吹っかけてきて、淳平を陥れようとしたことがあった。教師は両者を会話で和解させようとしたが、口下手な淳平は言い争いになるとまるで歯が立たない。まるで濡れ衣を着せられ、謝罪を要求されていたところを、当時クラス委員だった未央が救った。
「先生、私、市川くんが細工していたところ見ました。
神木くんはそばにいただけで何もしてないです」
たった一人の目撃者の証言で、状況は覆った。それだけ未央は普段から教師を含めクラス中から信頼されていたのだ。
ただし、口には出せなかったが淳平には疑問が残っていた。未央がその場にいた記憶がなかったのだ。たしかに騒ぎになった後に駆けつけた第一波にはいたと思う。しかしそのときは心底驚いた顔をしているように淳平には見えた。なぜその彼女がそんな証言を?
あんまり不思議に思ったため、帰り道、自宅に入る前の本人を捕まえ思い切って尋ねたところ、あっさりと虚言を認めた。
「誰にも言わないでね。
だって、喋るのヘッタクソな淳平が、ややこしい口ゲンカになりそうなことを自分からふっかけるはずないもん。
それに、淳平が嘘ついてないことくらい見ればわかるよ」
この件のインパクトは大きかった。
未央が、未央自身が築いてきた信頼を担保に自分の無罪に賭けてくれた。
二度と彼女に同じことはさせたくない。口では誰にも勝てないから、行動で示す以外にない。
それに、仮に誰も信じてくれなくても、自分には帰る場所がある。そこには彼女もいる。
以来、淳平の問題行動は見られなくなった。
