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中3の夏
一緒に通っていた塾の合宿にて、締めのレクリエーションである肝試しで未央と淳平はペアだった。
未央はその時点では、自分の淳平への気持ちが恋心なのか幼馴染への親しみなのか、判断がつきかねていた。
肝試しは運営側の準備不足によりさまざまな場面で失敗を繰り返していた。迷子が出たり、誤って一般人を脅かしてしまい通報されかけるなど、散々だった。
未央も淳平も、本来はレクリエーションのサービスを受ける側であったが、運営側の塾スタッフと一緒になって火消しに帆走した。
自分たちが楽しむことはそっちのけで、裏方の心配をし、皆が楽しんでいるかを気遣い、共に困難を乗り越えていくうちに、未央は淳平の、周囲への気遣いや優しさをひしひしと感じていた。彼は身体が大きく、表情の乏しい顔つきはお世辞でも柔和とは言いがたい。おまけに言葉が少ない。そのため、相手に威圧感を与えやすく、彼の心遣いは気付かれないことが多かった。
近寄りがたさからほんのりと距離を置かれているその裏で、「水、調達してくる。このグループ、しばらく水分取ってないはずだから」等と耳打ちしてコンビニへ走ったりする。
彼は相手の立場や自分への振る舞いで、人を分け隔てしない。
気づいたときには、未央の中で淳平への恋心が確かなものになっていた。

予定時刻を大幅にオーバーしたが、肝試しは無事にフィナーレを迎えた。参加者、塾関係者が互いに労いの言葉をかけ合いながら宿泊施設への帰路につく。人通りが少なくなったバス停から宿までの道中で、未央は自分の気持ちを淳平に伝えた。
具体的に何と伝えたのかは覚えていない。胸が痛いくらいに鼓動が激しかったのを覚えている。
「じゃあ、付き合う?」
彼の答えは未央の欲しかったものではなかった。
結果が良くても悪くても、率直な彼の気持ちを言葉にしたものを本当は受け取りたかった。
ただ、街灯の下、逆光でやや読み取りづかったが、そこに幼い頃からよく知る顔があった。当たり前のことをこなすときの顔、「わかってるのに、なんでそんなことを聞くの?」と、逆に聞き返すときの淳平。
淳平の問いかけに対して、今の自分の気持ちを考えると未央にはYES以外の答えはない。少しズルいと思ったが、その当たり前のような淳平の顔を見て、YESのその先が未央には意外にも明るく見えた。
未央が答えを逡巡している数秒の間、あまりにも顔を凝視され、いたたまれなくなった淳平はふいと向こうへ顔を逸らした。そのとき目の当たりにした耳の先が、夜でもハッキリわかるほど赤かった。
言葉にするのは、彼の性に合わない。
未央が無意識下で腹を括った瞬間だった。
以来、つまらないことで連絡を取り合ったり、部活のない日は一緒に帰る、のような生活をして今に至る。
