無口な彼、お利口な彼女

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「高橋さんってさ、
すっごく真面目で礼儀正しいのに、1組の神木くんのことは下の名前で呼ぶんだね」

夕暮れどき、2人きりで掲示物の張り替えをしている最中に、学級委員長の村松俊久(としひさ)が言った。
村松の柔和で悪気のかけらもない表情を向けられた高橋未央(みお)は、動揺を悟られないよう手短に明るい調子で答えた。

「幼馴染、だからかな」

その後はお互いの出身中学の話とか、松村の近所のお姉さんの話だとかに移行してゆき、この話題は立ち消えた。

(ごめんね、村松くん)

(私には度胸がまるでないんだ)


決して表立った行動はしないが実務をバリバリ支える、1年3組の副委員長。特技は波風を立てないこと。優等生の鏡。そんな高橋未央が、幼馴染で同学年の神木淳平をどう思っているかなんて言えるわけがなかった。相手がたとえ学年一安心できる委員長だと評判の村松であっても。