その何かは、ケルベロスの頭のひとつにあたり、
 粉状になって空中を舞う。



「ひひひ、興奮剤、さっきの十倍の濃度だ!」



 不気味に笑うアンダーソン。

 興奮剤!?
 つまり、ケルベロスは、
 薬でもって戦わされていたってこと!?

 道理で、ケルベロスの言葉が分からないと思ったら。

 なんてことを……!

 ケルベロスは粉を吸い、体をけいれんさせる。



「ウガアアアアッ!」



 薬の苦しみとも、
 己の動かない体を鼓舞(こぶ)しているともとれる雄叫び。

 そうして、ケルベロスはまたこちらにむかって、氷の息を吐きだした。

 それと同時に、魔王がケルベロスに向かって手を突き出す。

 あらわれたのは、鈍い光を放つ障壁だ。

 大きなバリアで、魔王は、わたしだけでなく、
 後ろにいる観客をも守ってくれた。