恋花ロマンチカ

打ちっぱなしの白いコンクリートの階段は、避難するには勿体無いほど綺麗に整備された非常階段だ。

「ここ、どこの非常階段ですか?」

「別館」

「べ、別館!?別館は1年が立ち入ったら駄目だと聞きましたよ!?」

「そんな決まりねーよ」

そりゃあ、片桐先輩は男子だから知らないだろう。これは、1年女子にとって鉄の不文律なのだ。

渡り廊下のオープンテラス、中庭を挟んで向かいにある2・3年校舎の屋上、大ホールや文化部の部室が入る別館の非常階段、1年生は立ち入りを禁止されている場所。

……完全に気を抜いていた。いつも屋上だったから、今日もそこだとばかり。

だけど、後悔先に立たず。きっと、あたしが片桐先輩と歩いている姿は人目に触れているはず、だ。

途端に、空気が薄くなった気がした。

「か、帰ります……」

「ついて来いって言ったよね」

「別館だと知らなかったんです!」

「下向いてる誰かさんが悪いんじゃん」

言い返せない代わりに俯くと、視界に一回り大きな足が映る。


「ほら、行こ」


片桐先輩は強引に腕を掴むと、平気であたしの足を動かした。