恋花ロマンチカ

鼻先いっぱいに広がる甘い香りはあたしの思考を強制的に寸断させる。

至近距離にあるのは力強い瞳を閉ざしたその綺麗な顔だけ。直に伝わる体温と、大きな手はあたしを優しく包み込む。


赤子のような脳みそは、まだ、動いてはくれない。


顔が離れると至極満足そうに片桐先輩は目を細めたので、それに理解したのろまな心臓は大きく息を吹き返す。


「…今日からよろしくね」


そして、あたしは事の大きさに、ようやく気付く。



「ひな、ちゃん」



この男から逃れられない現実を。