恋花ロマンチカ

この人が今までどういう付き合いをしてきたなんて想像もつかない。

だけど、紛れもない事実がある。

これはあたしが憧れていた"恋愛"とは掛け離れている現実だ。

「あの、あたしがこんな事言う筋合いありませんけど……あたしはちゃんと、好きな人と付き合いたい、ので……」

だから、付き合えない。

告白したあたしが、こんな事言える立場じゃない。ちゃんちゃらおかしい事実。

でも、何とか伝わるように、結んだ手の親指を擦りながら気まずそうに告げると、目の前の彼から「ふーん」とだけ、他人事のような相槌が聞こえた。

…分かって、くれたかな?

ちらり、その人の顔を覗く。


「じゃあ、俺の事好きになれば良いんだね?」


しかし、その薄い唇が告げる解答は正解とまるでかけ離れていたので、日本語を話しているのに意味が分からず一瞬、頭がフリーズした。

オレンジの光が世界の輪郭を朧気にする。

それでも変わらず、力強い王者の様に勝ち誇った笑みを浮かべる片桐先輩。


「そういう事だよね?」

「ち、違いますよ!そういう事じゃなくて、」

「違うの?」

「そもそも片桐先輩はあたしの事好きじゃないんですよね!?」

「……なんか面倒になってきたな」

「…え?だから、」

「ちょっと、黙ろうか」



それはそれは、いとも簡単に。

あたしの疑問すら、彼は飲み干した。