恋花ロマンチカ

言いたいことは喉の奥に閉じ込めて小さく見据える。


「…度胸だめしのようなもので。失礼なことして、すみません」

「ふぅん。度胸着いて良かったね」

「そうですね。……という事で帰ります」


足を動かせば、片桐先輩はロッカーを蹴るので、あたしは簡単に通せんぼされてしまう。

ノロノロと視線をあげる。視線の先の天使は不敵な笑みを浮かべていて。裏がある、直感的に感じてしまった。


「だから、勝手に逃げようとすんなよ、ばか」

「はい!?あの、無かったことに……」

「するかよ」

「はい?!でも、片桐先輩みたいな人と不誠実に付き合うなんて気が引けちゃうし……はは……」

「大丈夫。俺そういう子探してたんだわ」


降ってきた言葉はあまりに軽口で、お陰であたしの脳内は再び混乱の兆しを迎える。


「…!?い、意味が分からないです」

「俺に対して恋愛感情がないし、度胸もあるみたいだし。告白されるのも、下心で近付かれるのも、いい加減だるくてさ。彼女役でもいいから、誰かいないかなあと思ってたんだよね」


片桐先輩は淡々と理由を教えてくれた。

良い……?え、良いの?

そんな簡単に彼女を決めていいの?