空と海と、願いごと

「ちょっと……。ウソでも、『ありがとう』とか言えないの?」

 むっとして言うと、振り向いた暉くんが「うるさ……」と面倒臭そうにつぶやいた。

 暉くんは、さっき階段ですれ違った男子や他のクラスメートたちにもこんな態度をとってるのかな。だとしたら、友達関係がうまくいかなくて当然だ。

 だって、暉くん自身が誰とも仲良くなれない状況を作ってるんだもん。

「暉くんて、空以外の人に対して態度悪すぎっ!」

 ムカついてそう言ったら、暉くんが顔を赤くしてわたしを睨んできた。

「おれは、空くん以外の人と仲良くするつもりないから。空くん以外にはどう思われててもいいんだよ」

「そんなこと言って、まだ空とも仲直りできてないくせに」

「うるさいっ! そっちこそ、早く空くんと帰りなよ。どうせ今日も誘われてるんでしょ」

「誘われたけど断ったよ。暉くんが拗ねて駄々こねるから気を遣ってあげたんじゃん。早く謝って、空と仲直りしてよ」

「なんで、おれが……。悪いのは、おれのこと忘れてた空くんじゃん。お前が来るまでは、空くんも陸くんも海くんもおれのこと心配して気にしてくれてたのに。あんたが来てからは、みんな真凛、真凛って……。昔の知り合いだか、なんだか知らないけど、お前、ほんとにムカつく……」

 ちょっと泣きそうな顔でわたしを睨んでから、暉くんがほうきを持って階段を駆け上がっていく。

 だけど途中で、ほうきが足に引っかかって。暉くんが、階段の真ん中で、ちょっと間抜けにバタンとコケた。