わたしが引っ越しの話を聞かされたときには、住んでいた東京の家を売りに出されていて。パパは、わたし達を連れて田舎街に引っ越して、友達と民宿を共同経営していくことを決めていた。
「どうして、わたし達まで一緒に行かないといけないの? パパがひとりで行けばいいじゃん! ママとわたしで東京に残ろうよ」
中学校生活にも慣れてきて、あと数ヶ月で2年生になる。そんなタイミングで引っ越しなんて、わたしは絶対に嫌だった。
東京出身のママは、こっちに友達も多いし、わたしの気持ちをわかってくれるはず。
きっと味方になってくれると思ったのに、わたしが引っ越しに反対すると、ママはちょっと困った顔をした。
「ママは、パパについて行ってもいいかなって思ってるんだ」
「なんで?」
「パパのお友達の民宿では、ちょうど新しい調理師さんを募集する予定なんだって。ママが調理師と管理栄養士を持ってることを知ったパパのお友達が、ぜひ民宿で働いて、お客さんに出すよく食事の献立を考えてほしいって言ってるの」
ママは調理師の資格を持っていて、わたしが中学に上がる少し前から、老人福祉施設の調理室で働いていた。そんなママが、テーブルの上に両手をついてわたしのことをキラキラとした目で見てくる。



