空と海と、願いごと

「おとなになって今住んでる町を出たときにも、真凛の近くに入れたらいいな」
 空がわたしの顔を覗き込んで、にこっと笑う。その言葉が、二度目の告白みたいでドキドキしたけど……。わたしはやっぱり、なんて答えたらいいのかわからなかった。

「空は――、太一さんや家族と離れるのは寂しくないの?」

 そんなふうに聞いてみたら、空がほんの少し眉を寄せて、怒ってるみたいな、困ってるみたいな、微妙な表情になる。

「べつに寂しくないよ、おれは。陸兄や海は、『たいようの家』を守りたいみたいだけど、正直おれは、あんなボロ民宿どうなってもいい」

『たいようの家』のことをボロ民宿と言う空の声が、わたしの耳に冷たく響いた。

 空は、ちょっと馴れ馴れしすぎるところもあるけど、いつもにこにこしていて、ノリが良くて話しやすい。だけどときどき、すごく冷たい反応をするときがあるからびっくりする。

「空は『たいようの家』のことがあんまり好きじゃないの?」

「好きじゃないっていうか……。おれはべつにあそこが自分の居場所だとは思ってないし、あの民宿を残すことにも強いこだわりがないだけ。だけど、他の家族はあの民宿を死んだ母さんの形見みたいに思ってるから」

「形見?」

「そう。『たいようの家』は父さんと母さんが一からふたりで立ち上げた民宿で、名前の由来もふたりに関係してるんだよ。父さんが太一で、母さんが陽香だから、ふたりの名前から1文字ずつとって『たいようの家』。父さんや陸兄があの民宿を建て直したいのは、死んだ母さんがすごく大事にしていた場所だからだと思う」

 空が、どこか遠くを見つめながらため息を吐く。