「真凛ー、早くおいで」
外に突っ立ってても、仕方ない。
わたしはため息を吐くと、民宿のドアを開けて待っているママのほうに歩み寄った。
お客さん用の大きな靴箱がある玄関で靴を脱いで、太一さんが出してくれた緑のスリッパに履き替える。
上のところに消えかけた金の文字で『たいようの家』って書いてあるスリッパは、つま先部分のビニールの革が破れかかっていた。
玄関から入ってすぐのロビーには、謎の模様の入ったエンジ色の絨毯が敷かれていて。民宿の外観ほどはぼろくないけど、壁に飾られてる絵や写真、内装が全体的に古臭い。
今はまだ4月になったばかりで、海に遊びに来るには時期が早いのか。それとも、わたし達が来るから今日は定休日なのかはわからないけど……。宿泊のお客さんがいるような気配はない。
だけど、もしわたしが旅行で泊まるところを探すお客さんの立場だったら……。たとえ夏でも、こんな古そうな民宿は選ばないと思う。
「俺たちが生活スペースに使ってるのは本館の横の離れ。一階に共同の食堂やお風呂があって、二階と三階が部屋になってる。二階の部屋はうちの子どもたちに占拠されてるから、航一たちは三階を自由に使って。トイレは各階にあるよ」
先頭に立った太一さんが、説明しながらわたし達を案内してくれる。
離れは、たいようの家の本館から渡り廊下でつながっていて。わたし達は、これから生活することになる部屋へと案内された。
離れの三階には、トイレと小さめの洗面所と個室が三部屋。多少の大小はあるけど、全て和室。
どの部屋からも、ちょっとカビ臭い畳の匂いがしている。わたしが顔をしかめて立っていると、
「真凛は、どこの部屋にする?」
とママに聞かれた。



