「じゃあ、おれは部活行くね」

「うん、頑張って」

 そう言うと、海くんが「ありがとう」と笑う。

 家では無表情だった海くんが、わたしの声かけに反応してくれたことが嬉しい。だけど海くんは、廊下で待っている空には笑いかけるどころか、話しかけることさえしなかった。

 絶対に視界に入っているはずなのに、空のことを全く見ずに教室から出て行ってしまう。

 空も空で、わたしに対しては愛想良くにこにこ笑いかけてくるくせに、海くんにはにこりともしない。

 やっぱり、海くんと空はあまり仲良くないみたいだ。ふたりともお互いを、不自然なくらいに避けている。

 空が前に、冗談が本気かわからない感じの口調で「あいつのことだいっきらい」って言っていたけど……。海くんも空が嫌いなのかな……。

 空は海くんのことを「無愛想だし、しゃべったってどうせつまんない」って言ってたけど……。理科室移動のときにしゃべった海くんは、全然嫌な人じゃなかったし、つまんない人でもなかった。海くんはたぶん、わたしが想像していたよりもずっと優しくていい子だ。

 だから、誰に対してもにこにこと明るく振る舞える空が、海くんのことだけ悪く言う理由がわからない。

 ひどいケンカでもしたのかな。昔からあんなふうに仲が悪いのかな。すごく気になるけど……。無関係なわたしが余計な首を突っ込むのもなあ……。