「真凛、帰ろ〜」

 午後のホームルームが終わって帰る準備をしていると、空が廊下から声をかけてきた。朝に約束したとおり、わたしを迎えにきてくれたらしい。

 にこにこ笑いながら手を振る空に小さく手を振り返すと、ちょっと離れたところにいた石倉さんが恨めしそうにわたしを見てきた。

 理科室移動のときにわたしに嫌がらせをしてきたのは、やっぱり石倉さんだったのかな……? それは結局、わからないままだ。

 帰る準備をして席を立とうとすると、ちょうどそのタイミングで海くんがわたしのそばを通り過ぎていく。

「海くん……」

 呼び止めると、海くんがわたしを振り返る。

「なに?」

「あ、うん。空が呼びに来てくれたから、海くんも一緒に帰らないかなあって」

 そんなふうに誘ったのは、理科室移動の一件で、海くんとちょっと仲良くなれたような気がしたからだ。だけど……。

「ありがとう。でもおれ、部活あるんだ」

 困った顔をした海くんに、あっさりと断られてしまった。

「そっか。水泳部だっけ」

「そう。真凛に言ったっけ?」

「ううん。この前、空に聞いた」

「そうなんだ……」

 わたしが空の名前を口にすると、海くんが苦笑いして目を伏せた。そんな海くんの反応が気になって首をかしげたとき。

「真凛、まだ〜? 早く帰ろうよ〜」

 廊下で待っている空が、待ちくたびれた声でわたしを呼んだ。