空と海と、願いごと

「遅いぞー、お前たち」

 既に理科室で実験の準備を始めていた細めのカマキリみたいな顔の先生が、遅れてやってきたわたしたちのことをじろりと見てくる。

 なんか、怖そうな先生……。ちょっと怯んでいると、海くんがさりげなくわたしを背中に隠してくれた。

「遅れてすみません。おれが転入生の速水さんにだけ、理科室に移動ってことを伝え忘れてました」

 海くんの後ろで固まっていると、彼がそんなふうに先生に謝った。

「え、海くん……」

 違うよ。そういう言い方したら、海くんが悪かったみたいじゃん。移動教室を教えてくれなかったのは、クラスメート達の誰かで。海くんは、わたしを心配して教室まで迎えに来てくれたのに。

 思わず、目の前のシャツの背中をクイッと引っ張ると、振り向いた海くんが、わたしにだけわかるように少し目を細める。

『大丈夫』と。海くんの目が無言でそう言っているのがわかって、わたしはなんだかほっとした。