空と海と、願いごと

 わたしが海で溺れかける事故が起きたのは、パパが迎えに来る前日。

 ママの手術も無事に終わってほっとしていたパパのもとに、突然、太一さんからの連絡があって。パパはびっくりして、わたしが運ばれた病院まで車で飛んできた。

 パパが来たとき、病室のベッドにいたわたしは、きょとんとしてたらしい。

『わたし、どうして病院にいるの?』

 目覚めたわたしは、海で起きた事故のことを忘れていた。それから、2週間暮らした『たいようの家』のことも、民宿のみんなのことも覚えていなかった。

 念のために検査をしてもらったら、脳に異常はなくて。お医者さんには、海で溺れそうになったときのことがショックで、一時的に記憶がなくなったのかもしれないと言われたそうだ。

 わたしは結局、『たいようの家』のことを忘れたまま、パパといっしょに東京に戻った。

 太一さんから「民宿を建て直してほしい」と頼まれたとき、パパとママは最初にわたしのことを心配したらしい。

 だけど、小5の夏にプールに行ったとき以来、わたしはパニックを起こしてなかったし。親友の太一さんからの頼みを断れなくて、今回の引越しを決めた。

『お医者さんからは、むりやり思い出させるようなことはいわなくていいって言われてたから。黙っててごめんね』

 パパとママには謝られたけど、わたしは昔の話を聞いても「そうなんだ」って思っただけ。『たいようの家』のことも、3年前に会っていた空のことも、全然思い出せなかった。