空と海と、願いごと

「おはよう」

「真凛、おはよう」

 食堂の調理場で声をかけると、エプロン姿のママが振り向いた。

 フライパンを片手に、民宿に住む8人分の朝食を作るママは、2日目にしてしっかりと『たいようの家に馴染んでいる気がする。

「よく眠れた?」

 ママが半熟の目玉焼きをフライ返ですくってお皿にのせながら、尋ねてくる。

 うーん、どうだろう。

 前の家はベッドだったから、和室の布団の上で寝るのは田舎のおばあちゃん家に行ったときくらい。『たいようの家』の布団は薄めで固くて。正直、あんまり寝心地はよくなかった。

 それに、空からの告白のことや寝る前にパパとママに聞いたら小5の夏の話のことを考えていたら、目がピッカピカに冴えて寝れなくなった。

 昨日の夜。わたしはパパとママに、忘れてしまった小5の夏のできごとについて聞いてみた。

 今までは、思い出したくないことなら別に思い出さなくてもいいやって思ってたけど……。

 海岸で空に助けられて。空に告白されて。小5の夏のことを知りたくなった。

 空が覚えていて、わたしが忘れてしまっている3年前の出会い。それを少しでも思い出さないと、空にちゃんと告白の返事ができないと思ったんだ。