空と海と、願いごと

「おれ、真凛と付き合いって思ってるから」

 付き合う……? わたしと空が……?そんなこと急に言われても、どうしたらいいの……。

 空とは3年前にも会ってるみたいだど、わたしは昔のことを全部思い出したわけじゃない。

 ただ、昔も今日と同じように助けてくれた男の子がいたなって。そんな記憶がぼんやり甦ってきただけ。

 空はちょっとチャラい雰囲気はあるけどかっこいいし、パニックになったわたしを助けてくれた優しい人。だけど、空のことを「好き」かって聞かれたらよくわからない。

 だってわたし、前の学校の小坂くんのことが気になってるし……。なんて言っても、小坂くんとはもう会えないんだけど。ミサから届いたカラオケの動画を思い出して少し表情を曇らせると、空がわたしを抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。

 力強くて温かい空の腕の中で、海岸でパニックになったときのことを思い出す。

 あのときも、空はこんなふうにわたしを抱きしめて落ち着かせてくれたんだよね……。

 ドキドキしながらちょっと空の胸に頭をもたれかけさせると、ふわっと甘い香りがした。空から感じた甘い香水みたいな匂いに、あれ……? と思う。

 わたしを助けてくれた人から香ってきたのはもっと――。

 違和感の理由を考えていると、空がわたしの耳にささやいてきた。

「返事は今すぐじゃなくていいよ。だけど、おれの気持ち、真凛に知っててほしい」

 空の言葉が、わたしをドキドキさせる。そのせいで、考えかけていたことが全部、頭の中から消えてしまった。