空と海と、願いごと

「そう。もし間違ってたら恥ずかしいんだけど……。空は、昔もあんなふうに、海でわたしを助けてくれたことがある?」

 こんなこと聞くのは、自分でも変だって思う。だけど、パニックになって抱きしめられているときも、優しく背中を撫でられているときも、こんなことが前にもあったような気がしたし。

 抱きしめてくれた人(つまり空だったわけなんだけど)の腕の温かさや包まれた匂いに安心できた。パニックのあと意識をなくしちゃったのも、空の腕の中で安心して気が抜けちゃったからだ。

 だから、もしかしてって思った。もしかして、小5の夏に海で溺れかけたわたしを助けてくれたのも空だったんじゃないか、って。

 そうだとしたら、空が食堂で「真凛は覚えてないかもしれないけど、おれ達、会ったばっかりじゃないよ?」って言ってたことも理解できる。

「もしかして、わたしと空は前にも会ってる?」

 確かめるように聞くと、空はちょっと迷うように視線を揺らした。

「そのときのこと、どれくらいはっきり思い出してる?」

「うーん……。ほんとうにぼんやりとだけ。思い出したのは、昔も海で誰かに助けられたってことと、そのとき助けてくれた男の子が、空みたいに明るい髪の色をしてたなってことだけ」

 わたしが答えると、空が「そっか」とつぶやく。それからしばらくなにか考えるようにうつむいたあと、空が顔をあげた。