生まれてからずっと住んでいた東京の街から海辺の田舎町へ車で移動する道中。後部座席のシートに靴を履いたまま横に寝転がったわたしは、史上最高にふてくされていた。

「もうすぐ着くよ」
「ほら、真凛(まりん)。海が見えてきた」

 助手席のママがわたしを振り返り、運転席のパパがわたしの機嫌を取るように、ドアの横のボタンで操作して後部座席の窓を半分くらい開ける。

 ざざーっという風の音とともに流れ込んできたのは、東京ではあまり感じなかった砂と磯の匂い。その匂いに鼻をつまみながら体を起こすと、わたしは無言で窓を閉めた。

 窓の向こうに広がる深いブルーの海を恨めし気に見るわたしに、ママが困ったように肩をすくめる。
 
 ママの反応を無視して、また、ごろんとシートに寝転がったわたしは、最近テレビで放送していたアニメーション映画の冒頭部分を思い出していた。

 親の都合で引っ越しが決まって、新しい家へと移動する車の中でずっとふてくされてる主人公。

あのときは、ただなんとなく見てたけど……。今なら、あの子の気持ちがめちゃくちゃよくわかる。

 親の都合に振り回されるのは、いっつも子どもなんだ。

 速水(はやみ) 真凛(まりん)、この春、中学2年生。わたしは今、両親に無言の抗議中である。