空と海と、願いごと

 だけど、さくら貝を見つけた日の夕方。わたしは海で溺れかけて、『たいようの家』で過ごした時間を全部忘れてしまった。さくら貝のことも、海くんや空のことも。自分の気持ちも。

「おれね、3年前に真凛が溺れて記憶を失くしたとき、海のことめちゃくちゃ責めたんだ」

 わたしが3年前のことを思い出していると、空が少し苦しそうな声で言った。

「真凛が、海の話を信じて一生懸命さくら貝を探してたっていうのがまず嫌だったし。ひとりで夕方の浜辺に降りてた真凛に気付けなかったことにも、真凛を助けたのが自分じゃなくて海だったってことにも腹が立った。あの頃から、おれだって、真凛のこと好きだったんだよ。だから、真凛がおれのことまで全部忘れちゃったんだって思ったら、悲しくて気持ちの整理がつけられなくて。海に言っちゃった。『母さんが死んだのも、真凛がおれたちのことを忘れたのも全部お前のせいだ。お前はいつも、おれの大事なものを奪っていくよな』って」

「……」

 空たちのお母さんの話は、前に陸くんからも聞いている。

 お母さんが、家出した海くんを探している途中に事故に遭ったことも。そのことで、空が海くんを責めたことも。陸くんが言っていたとおりだ。だけど……。

 空が、わたしのことでも海くんを責めたってことまでは知らなかった——。