「真凛のことを部屋まで運んだのは空だし、この前も今日も、真凛が目覚めるまでずっと空がそばにいた。真凛がお礼をいう相手はおれじゃないよ」

「でも……」

「じゃあ、おれ、部屋戻るね」

 まだ言いたいことがあるのに、海くんはわたしに何も言わせてくれない。

 追いかけようとするわたしに背を向けると、海くんは先に階段を上っていってしまった。

 どうして……。

 速足で歩いていく海くんの背中を見つめながら、ちょっと泣きそうになる。

 引っ越してきてすぐの海くんの印象は不愛想で冷たそうって感じだったけど、それはパッと見だけ。海くんはほんとうは優しいし、東京の友達のことや好きだった人の話にもちゃんと耳をかたむけてくれた。

 それなのに、どうして今はわたしの話をちゃんと聞いてくれないんだろう。どうして、空がわたしを助けたことにしたいんだろう。

 わたしはちゃんと思い出したのに——。

 3年前の夏に溺れかけたときのことも。そのとき、自分がさくら貝を探すために浜辺にいたことも。見つけたさくら貝を、誰のために探していたかも。全部。