「それ、何の話?」

 海くんの声のトーンが急に低くなって、ちょっと戸惑う。

「え、っと。だから……。3年前に溺れかけたわたしを助けてくれたのは、海くんだったんでしょ。それに、ここに引っ越してきた最初の日に、浜辺でパニックになったわたしのことを助けてくれたのも――」
「空だよ」

 海くんが、最後まで聞かずにわたしの話をさえぎる。

「え、でも……。わたし、思い出したんだよ。さっき女の子のことを助けた海くんを見て。3年前の夏、わたしもあの子みたいにサンダルを波にさらわれて、そうしたら海くんが――」
「真凛を助けたのは空。引っ越してきた日に、空本人から言われてない?」

「そう、だけど……」

 海くんに聞かれて、わたしは思わず言葉を詰まらせた。

「でも、わたし、ちゃんと思い出したんだよ。海くんが助けてくれたときのこと。どうして空が『自分が助けた』って言ったのかはわからないけど、それにはなにか理由があったのかな、って……」

「空、すごい心配してたよ。真凛のこと」

 そう言って、口角をあげて笑う海くんはこれ以上わたしの話を聞きたくないみたいだった。