『真凛、戻って……!』

 声が聞こえて振り返ったとき、頭からざぶんと大きな波をかぶって……。そこから先は、記憶が曖昧――。

 いつのまにかわたしは砂浜に引き上げられていて。ぎゅっと抱きしめてくれる誰かが、泣きながらわたしを呼んでいた。

『真凛……、真凛……!』

 うっすらと目を開けると、見えたのはキャラメル色の髪をした男の子。その子はわたしの名前を呼びながら、涙で顔をクシャクシャにしていた。

『真凛……。よかった……』

 わたしと目が合うと、彼がほっとしたように息をついてわたしの頭を撫でる。

『もう、大丈夫だから……。父さんがすぐに救急車呼んでくれる……』

 男の子の声をぼんやりと聞きながら、わたしは握りしめた左手を彼のほうに差し出して開いた。頭はぼんやりしてるのに、そうしなきゃいけないんだって体はわかってた。

 海のなかに、落としてしまっていないといいけど……。