空と海と、願いごと

 教室の前の廊下でそのまま少しおしゃべりしたあと、わたし達はバスに乗って『たいようの家』に帰った。

 空と暉くんと、民宿の本館から離れに移動すると、食堂のほうからふわーっと、バターのいい匂いが漂ってくる。今日も、ママがなにか作ってるらしい。

 甘いんだけど、甘すぎない。この匂いは、お菓子じゃなくてパンかな。

 前の家に住んでいたときも、ママはときどきパンを焼いてくれていた。

「ちょーいい匂い。真凛ママ、今日は何作ったのかな」
 クンクンと鼻をひくつかせた空が、食堂のほうに駆けていく。

「あー、待ってよ。空くん」

 空の背中をパタパタ追いかけていく暉くんのあとから、ゆっくり食堂に入ると、調理場からママが出てきた。

「みんな、おかえり〜」

 ミトンをつけたママの手には大きな天板。そのうえに、焼き立てのパンが載っている。

「ただいま。真凛ママ、今日はパン焼いたんだ」

「そうなの。ちょうど焼き立てだから、食べてみる?」

「食べる、食べる」

「あ、こっちはまだ熱いからちょっと待って。先に焼いたほうを出してあげる」

 真っ先に天板の上のパンに手を伸ばそうとした空を見て、ママが笑う。それから、調理場の作業台で冷ましてあったのほうのパンをカゴに入れて持ってきてくれた。