空と海と、願いごと

「使ってみる?」

 ぼんやりと想像していたら、海くんがわたしの手のひらの上に小さなさくら貝を載せてきた。

 淡いピンクの貝殻はとても軽くて、壊してしまいそうで怖い。

 こんな小さな貝殻ひとつで願い事が叶うなら、わたしは何を願うだろう。考えてみるけど、意外と思いつかない。

 だいたい、海くんは、お守りの中にずっと大切にしまってきたさくら貝をわたしなんかに渡していいんだろうか。

「もしほんとうに人魚が願い事を叶えてくれるなら、試してみたいけど。これは使えないよ。海くんのだもん」

 わたしは、小さなさくら貝を壊さないように手の中に包むと、海くんに返した。

「べつに気にしなくていいのに」

「気にするよ。だって、見つけるのが難しい珍しい貝なんでしょ?」

「うん。だけどこれはおれが見つけたんじゃなくて、人からもらったんだ。願い事が叶うように、って」

 手のひらに返したさくら貝を見つめた海くんが、ちょっと切なそうに目を細める。

「海くんにも、人魚に叶えてもらいたい願い事があるの?」

「願い事があるんじゃなくて、あった、かな」

 わたしの質問に、海くんがふっと笑いながら答える。

 海くんの笑顔は少し淋しそうで。その表情に、わたしまで胸がぎゅっと苦しくなった。