空と海と、願いごと

 パニックになっていたわたしは、助けてくれた人の顔をはっきりとは見ていない。覚えているのは、優しい声でわたしを落ち着かせて抱きしめてくれた人の髪がキャラメル色だったことと、潮風みたいな爽やかな香りがしたことだけだ。

 空を疑いたいわけじゃないけど、あのとき助けてくれたのは、ほんとうはもしかして――。

「あのさ、海くん……」

 海くんに確かめてみようとした、そのとき。

「このお守り、死んだ母親が作ってくれたものなんだ。だから、同じのを空も持ってるし、陸兄も持ってる」

 海くんが、先回りして、わたしが聞きたかった質問に答えてくれた。

「そう、なんだ……」

 だとしたら、やっぱり、あのときわたしを助けてくれたのは空で。あのお守りも空のものだったってことだよね……。

 なんだか少しガッカリしている自分がいて。空に申し訳ない気持ちになる。

 昔も今も、海でわたしを助けてくれたのは空で。空はわたしを「好き」だと言ってくれているのに。

 わたしはほんの一瞬、助けてくれたのがほんとうは海くんだったらな、って思ってしまった。どうして、そんなふうに思ってしまったんだろう。