空と海と、願いごと

「ありがとう。陸くんは?」

「おれは、もうちょっと掃除してから入るから」

「そっか。夕方も掃除しててえらいね」

 感心して見上げると、陸くんが照れたように笑った。

「委員会ないときだけね」

 だとしても、朝も夜も、民宿のお手伝いをしててえらい。わたしは今まで、ママのお手伝いなんてろくにしたことないのに。少しは、陸くんのこと見習うべきかも。

「頑張ってね」

 わたしは陸くんに声をかけると、食堂に向かった。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 調理場をのぞくと、お鍋に作った料理を味見していたママが振り向いた。 

「ママ。暉くん、来た?」

 先に中に入っていた暉くんがいるかと思ったけど……。食堂に暉くんの姿はない。

 まだ、ママに謝ってないのかな。顔をしかめていると、ママがエプロンのポケットから何かを取り出した。

「暉くんなら、さっき食堂に来て、どこかに行っちゃったわよ。昨日のこと謝まりに来て、チョコレートまでくれたの」

 ママが手に持っていたのは、わたしが暉くんといっしょにコンビニで選んだチョコレート。にこにこ顔のママは、ちょっと嬉しそうだ。

 暉くん、ちゃんと謝ったんだ。わたしと入れ違いで、空の部屋に行ったのかもしれない。

 暉くんが無事に空と仲直りできそうで、ひと安心だ。安心したら、わたしも陸くんを見習わなきゃってことを思い出す。