手を引っ張って無理やり立ち上がらせ、どうにか授業は間に合った。だけど授業中も上の空のように見えたし、先生に指名されてもしばらく気付いていなかった。

 らしくない。まったくもってらしくない。



「莉桜、昼休み」



 授業が終わってもぼんやり外を見たまま動こうとしない莉桜に、僕はため息をつきながら声を掛ける。それでも動かない。



「りお!」



 少しばかり苛立って強めに名前を呼ぶと、莉桜はびくりと肩を震わせて、やっと顔を上げた。



「あ……ごめん、何?」


「昼休み。弁当は?」


「ああ、うん。食べるよ。食べる食べる」



 莉桜はそう言って、視線を足元にやり、キョロキョロする。



「あれ、私の鞄は?」


「……鞄は教室だろ? ここは物理室だ」


「……そうだった」



 のろのろと立ち上がる莉桜を見ながら、僕は大きくため息をついた。



「なあ、何かあったのか?」