明るく賑わう繫華街の端の方に、佑馬の行きつけの居酒屋はある。

 年季の入った外観に反して中は新しく、安価で味も良い。酒を飲める歳になって以来ずっと通っている。

 顔なじみの店員は佑馬を見ると、待ち合わせ相手はもう来ていると言って半個室の席へ案内した。



「遅くなってすみません卓さん」


「打ち合わせが長引いてたんだろ。気にするな」



 待っている間、料理に手を付けるでもなくテーブルに原稿用紙を広げていた男は、佑馬の声に視線を上げた。


 高島卓。

 佑馬たちが高校一年生だったときの文芸部部長。現在は佑馬の同業者だ。



「卓さん、仕事はどうです?」


「どっちの話だ?」


「どっちも」



 同業者とは言っても、卓は佑馬と違って専業の作家ではなく兼業作家。一般企業──それも、皆が羨む一流企業に勤める傍ら執筆している。

 卓は原稿用紙を鞄にしまいつつ自嘲気味に笑った。