ぐっと込み上げてくる気持ちがあった。

 生きようという気持ちになれる。それはまさに、佑馬が物語を綴る上で目指しているものだ。



「……どうか身体を大事にして、生きる希望を捨てないでください。僕の小説が生きたいと思うきっかけになるのなら、僕はこれからいくらでも書き続けますから」



 声色こそ冷静なように装ったが、切実だった。

 誰にでも平等に……ただしタイミングは不平等に死が訪れることを、佑馬は嫌というほど知っている。だけど希望を捨てるのはダメだ。



「櫻田先生」



 リサは頬を伝った涙を拭い、笑ってみせた。



「サイン大事にしますね。達筆で尊敬しちゃいます! それと実物の先生、写真で見る100倍はかっこいいですよ!」



 リサは頬を軽く染めながらそう言って、ばっと勢いよく一礼した。

 回れ右して歩いていくその姿が完全に見えなくなるまで、佑馬はつい彼女のことを目で追ってしまっていた。