サイン会というのはこれまで何回か経験したが、なかなか慣れることができない。

 駅中の大きな書店に用意された櫻田佑馬サイン会スペース。集まった人々の列を見ながら、佑馬はこっそり苦笑いする。

 これだけの人が自分の小説を読み、好きだと言ってくれるというのが不思議でならない。何なら気を遣った書店員たちが用意した偽客(サクラ)なのではないかという気さえしてくる。



「新作読みました! もう切なすぎて一晩中泣いちゃって……」


「ありがとうございます」



 とはいえ、やはり自分のファンだと名乗る人たちからそういう言葉を掛けてもらえるのは素直に嬉しい。

 佑馬がサラサラとペンを走らせ、サインと日付、それからトレードマークである眼鏡のイラストを添えた小説を手渡すと、皆目を輝かせて受け取ってくれる。


 作品によって多少違うが、佑馬のファンは全体的に見て若い女性が多い。今日のサイン会でも、8割近くが10代から30代ぐらいの女性だ。