母親は莉桜のことを優しく抱きしめる。
胸いっぱいに溢れそうな気持ちをそうやってしばし母娘で共有し合った。
やがてその母親が帰って一人になると、莉桜の頭には大切な幼なじみの顔が浮かぶ。
「佑馬、私生きられるよ」
本当は今すぐ電話をしてでも伝えたかった。
だけどスマートフォンはあまり使わないからと母に預けていたし、ロビーの公衆電話を使おうにも、佑馬の携帯番号を覚えていない。
……手術が終わってから伝えよう。驚かせてやろう。
あの子はなんて言うだろうか。
クールぶった表情を崩さないまま「良かったな」とそっけなく言うかもしれないし、案外泣いて喜ぶかもしれない。
莉桜にとって、昔から佑馬は特別だった。
いつも気が付けば当然のようにそばにいてくれて、だけど必要以上には踏み込んでこない。
普段は他人に興味が無さそうな態度をとるくせに、実は莉桜のことを誰よりもよく見ていて、わかってくれる。