「莉桜。落ち着いて聞いて」



 手術が翌日に迫った日。

 いい加減ナーバスになっていた莉桜に、母親は病室に入ってくるなり興奮を隠しきれない様子で言った。



「何? 落ち着いてないのはお母さんじゃん」


「ああ、そうね。ごめんね」



 莉桜は自分の母親のことを「私よりもか弱くて悲観的な人」と評価していた。

 そんな母親が珍しく顔を上気させている。それだけで、何やらとんでもないことが起こったのだと伝わり、ごくりと唾を飲み込んだ。



「移植手術がね、できるかもしれないって」


「……え?」


「莉桜ちゃんに適合するドナーが見つかったのよ!」



 莉桜はもう一度「え?」と声を上げる。


 心臓移植。

 莉桜の抱えている病気を完治させる唯一の方法。


 期待したことが無かったわけではない。だけど、望みは薄いと思っていた。

 心臓のドナーと成り得るのは、心停止していない死亡者、すなわち脳死の人に限られる。