「卓さん」



 行きたい場所がある。そう言った卓が指定してきたのは、美しい夜桜が見えることで最近一部で話題になっているレストランだった。

 店の近くの待ち合わせ場所に先に来ていた卓を見つけ、佑馬は早足で駆け寄った。



「やっと来たか」



 そう言った卓は、仕事帰りらしく今日もスーツ姿だ。

 普段通りの格好で来てしまったが、レストランならある程度正装で来るべきだっただろうかと佑馬は少し後悔する。



「それで、どういう風の吹き回しですか? いつもの居酒屋ではなく、こんな洒落たレストランに呼び出すなんて」


「悪いな。実は知り合いが経営している店で、前から来いと誘われてたんだが……こう、一人で入るのは気が引ける雰囲気だろ」


「なるほど」



 若い層に向けた店のようで、中は20代ぐらいと思しき女性の姿が目立つ。確かにいくら知り合いの店でも、男一人で入るのはだいぶ勇気がいりそうだ。