巷の桜は咲いていて五分咲きといったところだが、この桜はなぜか満開だ。

 残念ながら詳しくないのでわからないが、ソメイヨシノとはまた別の種類の桜なのだろうか。


 花の付いた枝は長く伸びていて、ちょっと頑張ったら触れられそうだ。

 そんなことを思って、僕は美しい花びらにまっすぐ手を伸ばす。


 指先が触れるまであと数センチ。ふわりと柔らかな風が吹いて、誘うように枝が揺れる。


 踏みしめた足元の違和感に気が付かないぐらい、僕はこの花に夢中になってしまっていた。