高校時代から変わらない先輩のマイペースさにやれやれと息を吐く。

 取り出したついでに通知を確認すると、母親からのメッセージが一件入っていた。仕事のキリが悪いのを理由に、帰る帰ると言いながらなかなか帰ってこないことへの文句が綴られている。

 その文句にはアパートに戻ってからゆっくりと対応することにして、佑馬は一旦スマホをポケットにしまった。


 それから、目の前の桜の木にもう一度目を向ける。


 何度見たって、ごくごく普通の桜の木が立っているだけ。この木にあの子の幻を見せてくれと願うだなんてどうかしてる。

 8年経った今も傷が癒えきらず気持ちが不安定になるこの時期。桜の持つ魔性の美しさは、佑馬のその不安定さに付け込んできたのかもしれない。


 あのタイミングで電話を掛けて意識を現実へと引き戻してくれた卓には、明日会ったらお礼を言っておこう。佑馬はそう心に決めた。