「……は?」



 ある一本の桜の木の下に、幽霊が立っていた。

 霊感などないし、この世ならざるものの存在は信じていない。──だけど目の前の桜の木にもたれかかるようにして、8年前に死んだはずの幼なじみが立っていたら、誰だってその可能性を疑うだろう。

 その幽霊はおどろおどろしいところなど少しもなく、生前と同じようにただ穏やかな笑顔で、こちらを見ていた。



「なん、で……」



 佑馬は呟きながら、ふらふらとその幽霊に近づいていく。

 だがそのうちに気が付いた。これは幽霊じゃない。ただ自分が白昼夢を見ているだけだ。


 そういえばここ数日、執筆に夢中で寝不足になっている。その状態でこの場所に来て、思い出ある地元の桜並木を連想したりなんてしたから、願望が幻となって現れてしまったのだ。

 ただ、そう気付いた上で、それでも構わないと思ってしまった。