母に背中を押され、僕は病院の建物を出た。出口の先は、莉桜が案内してくれた中庭に繋がっていた。


 怒った顔のままの母は、僕の肩を掴んで自分に向き合わせると、僕の頬を手のひらで強く叩いた。

 パシン、と乾いた音が響く。



「痛っ」



 ジンジンと痛みが広がっていく。母に叩かれたのなんて、記憶する限り初めてだ。



「自分のしたことは、ちゃんと分かってるんでしょ?」



 問いかけられて静かにうなずいた。



「……そう。それならわたしから言うことは無いわ。しっかり反省なさい」



 そう言って、母はほんの少しだけ表情を和らげた。

 母はそういう人だ。昔から僕たちのことを頭ごなしに叱ったりはしない。何が悪かったのかを自分たちで考えさせる。そして十分反省させた後には……



「はい、これ」



 温かい缶コーヒーが手渡された。知らない間にこれでもかというぐらい冷えていた手に、じんわり熱が伝わる。

 子どもたちが十分反省したを確認すると、こうして優しさを見せる。