初めての愛をやり直そう

 雲一つない澄んだ青空が広がっている。拓斗はそんな青空を見上げながら、茜が来るのを待っていた。

 脳裏には離婚届を提出する茜の姿が浮かんでいる。あの瞬間まで拓斗は弁護人として茜の傍にいた。

 だが、今は違う。島津拓斗、一人の男として茜を待っている。区役所で受理された瞬間から茜は榛原茜に戻り、誰にも縛られない独身の女性になった。

 拓斗が手を伸ばし、抱きしめ、その唇にキスをしても、誰にも責められることはない。愛しいと口にしても、咎とされることもない。

「拓斗君」

 不意に呼ばれ、顔を巡らせる。笑顔の茜が立っていた。

 きれいに着飾り、化粧をした大人の茜。だが笑顔は十年前の愛しいと思った笑顔そのままだった。

「待った?」
「時間まで待ちきれなくて早く来たんだ。ここで待っていたくて」
「ホント? うれしい」

 報酬の3D映画を観るために映画館へと向かう。拓斗は歩きながら茜にずっと言いたかったことを告げた。

「女性は離婚後半年間、結婚ができなかった。でもその法も廃止となる」
「うん」
「法の下に平等のはずなのに、男と女で再婚の期間に差があるのは差別だと俺は思ってた。だから廃止はいいことだ。そう思っていた。だけどさ」

 茜が小首をかしげる。

「自分が当事者になって、本当によかったって思うよ。そりゃあ好きな人と結婚できるなら半年くらい待てるだろうけど、でもやっぱり、すぐにでも結婚したいと思うからさ」
「拓斗君」

 拓斗は立ち止まり、茜の正面に立った。

「やり直したいんだ。十年前、俺が犯した失敗を、もう一度、やり直したい」
「拓斗君」
「好きだったんだと、今更ながらに思うんだ。愛しいって。茜、どうか、もう一度チャンスをくれ。今度こそ、ずっと傍にいるから」

 茜の瞳が涙に揺れた。

「茜」
「バツ一でもいいの?」
「バツは関係ない。大事なのは茜自身」

 涙で潤んだ瞳は、今度は喜びに満ちている。

「私も、拓斗君が好き」

 拓斗は茜の手を取り、しっかりとつないだ。

「もう絶対に、離さない。一緒に歩いていきたいんだ」
「私も、離さない。聞きたいことはちゃんと聞くし、伝えたいことはちゃんと伝える」
「約束だ」
「うん、約束する」

 十年前に途切れ、止まってしまった二人の時間が、今、動き始めた。

 ――失った時間を取り戻そうよ。愛しているから。やり直そう。