初めての愛をやり直そう

 一か月が経った。

 その間、茜は毎週土曜日、拓斗と会っていた。本当は毎週会う必要などなかったが、どちらともなく互いにそれを求め、約束を交わした。

 ファミレスの片隅での逢瀬は高校時代を思いださせてくれて、なんとも甘酸っぱい思いを抱かせた。
 特に茜は夫の浮気の疑惑という、本来なら傷つく問題に直面しているはずなのに、心は真逆で土曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。

 今日は調査の結果を知らせるとメールがあった。いつものファミレス、いつもの席。

 茜は拓斗が来るのを待っていた。

「あ、島津君」
「待った?」
「うぅん。うれしくて、早く来ちゃっただけ」
「そう、じゃ、さっそく始めよう」

 差し出されたA4の茶封筒。茜は中身をテーブルに広げた。

 女連れの夫が幾枚もの写真にバッチリ写っている。しかも対象の女は二人いた。

 言い逃れのできない証拠品が、茜に現実を示し、彼女に改めて決意を固めさせた。

「どんな状況になろうと茜の勝ちだ。しかも、浮気相手は一人じゃないから、言い逃れの余地はない。裁判になったら俺がつくから安心してくれていいよ。でも、ならないと思う。この証拠を前に裁判をするバカはいないよ。それに相手に弁護士がつくかどうか疑問だ。この状況で島津と戦うのはバカらしいって、誰も引き受けないんじゃないかな」

 茜が小首をかしげる。

「どういう意味?」
「三年目の駆け出し弁護士、若造だけど、これでも無敗だ。大丈夫だよ」

 穏やかな微笑みには自信が滲みでている。茜は心の底から安堵できた。

「うん、ありがとう」

「離婚の際は立ちあおうと思ってる。ゴネたら俺が諌めるよ。こっちの準備は整ってるから、いつ旦那さんに切り出してもOKだ。だけど言うのはあくまで離婚の提案だけにして、浮気をしていることは追及しないように。浮気してるんじゃないのか? くらいはいいけど、証拠を握っているとかはナシだ。相手に考える時間を与えてしまうからね。わかった?」

「わかった。絶対言わない」
「それで報酬の件だけど」
「うん。それが気になってるの。慰謝料を取れたらそこから回すから心配はしてないけど、でもどれぐらいかかるのか、ぜんぜん知識がないから」

 緊張気味に答える茜を前に、拓斗も背筋を伸ばした。

「無事に離婚できたら、俺と一緒に映画に行ってほしい」
「……は? 映画?」
「そ。3D映画」

 茜は目を見張った。