一週間が経った。

 結局茜は期末テスト全てを欠席してしまった。

 あの時の衝撃と失意は次第に薄れ、拓斗は茜の突然の拒絶を考えなくなっていた。

 さらに明日から冬休みが始まる。それが終わる頃には、もうなにも感じなくなるだろうと思った。

 茜もそれを望んでいるのではないか――漠然とそんなことを考え始めていた。

「ねぇ、島津君、ちょっと話があるんだけど」

 予備校に行こうと学校を出た拓斗を、神野が待ち伏せしていた。

「なに?」
「あのさぁ、冬休みの間って、私もけっこう時間ができるの。でね、島津君に家庭教師をしてもらいたいなぁって思って」
「家庭教師?」
「うん。一度は断られたけどさぁ。それって先約があったからでしょ? 今はフリーじゃないの? 私の勉強見てもらえない?」
「…………」
「教えてもらうばかりじゃ悪いから、私も島津君にちゃーんとお礼するし」
「礼? どんな?」
「デートでもいいし、私のことカノジョって紹介してくれてもいいし。勉強の場所はファミレスなんかじゃなくて、私の家でいいわよ」

 拓斗はすべてを悟った。

 神野に見られていたのだ。そして神野は茜に迫ったのだ。

 茜にとって神野はコンプレックスの塊のような女だ。その神野に詰め寄られたらイヤだとは言えないだろう。

 どんなに頑張っても、勝てっこないと思っているのだから。

 拓斗はギュッと握り拳を作り、怒りをこらえた。

「悪いけど、俺、自分のことで精一杯なんだ。来年から受験に向けて必死で頑張らなきゃいけない。人の面倒を見ている余裕はない。ファミレスってことは、俺が、あ――榛原さんと一緒にいるところを見たってことだよな? あれももうやめた。俺が断ったんだ」
「はっ? なに言ってるの? そんなウソは」

 神野の言葉を遮るように、拓斗は、だけど、と大きな声で続けた。

「だけど誤解しないでほしい。たとえこんな状況じゃなかったとしても、俺は神野の勉強を見る気はないし、デートする気も、カノジョって紹介する気もない。俺、神野のこと、好きでもなんでもないから」
「…………」
「むしろ好きなタイプと真逆で、御免被るって感じ」

 神野の顔が引き攣り、見る見る怒りに染まっていく。

 拓斗はそんな神野の変化を冷たく見ていた。

「つきあっているうちに好きになるって話も、たぶん限界があると思う。そういうのって、なんだかんだ言いながら、やっぱり根底は好きから始まっていると思うんだ。だからつきあうことになっても、俺が神野を好きになることは絶対にない。それだけは断言できる」

「よくそこまでひどいこと言うわね!」

「これぐらいはっきり言わないと、自意識過剰の勘違い女にわからせるって無理だろ!? 受験に必死で女どころじゃない俺なんか無視して、タイプな男とよろしくやりゃいいんだ。なんたって学園のアイドルで、現役のグラビアアイドルなんだから」

「言われなくてもそうするわよ。なによ、ちょっと賢いからってお高くとまって。サイテー! つきあってもいいかなーって思った私がバカだったわ!」

 神野は怒鳴るように叫び、身を翻して走り去っていった。

 神野の後ろ姿をしばし見送ると、拓斗もまた駆けだした。